作文
大好きな父
埼玉県所沢市 小学校6年 A・Kさん
朝が好きだ。朝と言っても小鳥のさえずりとかキレイな朝日とかじゃなくて、スーツにきがえる父のボタンをするのが好きだ。なかなかボタンができない私に「ゆっくりでいいよ」と父がニコッと笑う。この時の優しい表情が好きだ。「パパ、ネクタイ忘れてるよ」と言いながら、弟がまちがって母のスカーフを持ってきてしまう。そんなおっちょこちょいな所も好きだ。その様子をみた姉が「タクシーの運転手ってダサイよね。私、サッカー選手とけっこんしたい」とボソッとつぶやく。こんな正直な所も好きだ。
「よし!いってくるぞ」父が言うと「今日も安全うんてんでね」と母ができたての弁当を渡す。その時に「昨日の肉じゃがで作ったカレーかな?」と父がズバリ言い当てる。こんな鋭い所も好きだ。
昼も好きだ。昼と言っても給食とか昼休みとかじゃなくて、友達と父の話をするのが好きだ。「昨日テレビでお父さんみたよ」と親友のゆりちゃんが話し、さらに「お前んちの父ちゃん、スゲーな」ととなりの席の男子が父をほめる。これは父が防いだサギ被害のこと。二ヶ月前、父は「ATMにつれてってほしい」というおばあちゃんをタクシーに乗せた。しかし話をしているうちにサギだと思ったらしい。このあと父は警さつに通報し、おばあちゃんはサギにあわずにすんだ。そんな父の活やくを知った友達は「パパ、かっこいいね!」と私をうらやむ。この時に感じるゆうえつ感もたまらなく好きだ。父ってスゴイな。父ってカッコイイな。口では言えないけれどいつも思う。
夜も好きだ。夜と言っても晩ごはんとかお笑い番組とかじゃなくて、家族と楽しく話をするのが好きだ。
「パパはなんでタクシーの運転手になったの」という弟に「家族をやしなっていくためだよ」と父がマジメに答え、「じゃあなんで一回やめたの」と聞けば「それも家族のためだよ」と答える。この時の父のやさしい顔が好きだ。
実を言うと父はタクシーの運転手を一度やめている。理由は母の出産。弟がお腹にいたとき、母は重い病気にかかっていた。このままでは赤ちゃんも母も死んじゃうかもしれない。そう言われて、あわてて父が仕事をやめた。今で言う『主夫』ってやつだ。その時の記おくは今もちゃんと残っている。丸こげの玉子焼。生焼けのハンバーグ。炊飯ボタンを押し忘れたごはん。家事をほとんどやったことのない父は失敗の連続だった。
「どっちが卵をうまく割れるか勝負だ!」と言った時は殻の入った父の卵を見てガッカリした。父は私よりも卵をわるのが下手だった。だけどおいしい親子丼をたべた時にはたまごみたいに、ふんわりした気持ちになっていた。父がいて良かった。主夫になってくれて良かった。そう何度も思った。
「パパのおかげで家族がみんな幸せなんだね」
母がしみじみ言うと、父が
「ほら、早く食べないと、せっかくママが作ったからあげが冷めちゃうぞ!」
とてれかくしをする。こんなカワイイ一面もまたいい。
そんな会話の途中で、
「私、パパみたいな人と結婚したい」
と朝はサッカーせん手がいいと言っていた姉がサプライズ発言をする。こんな展開も好きだ。
「はたらくって何だろう」というこの作文を書いている最中に、
「そっか!わかった!わたしは働いているパパも好きだけど、家族といるパパは、もっと、好きなんだ!」
と言うと、
「うれしいな。ありがとう。」
と父が頭をなでる。その手のひらがものすごくあったかい。
いつかは私も社会の一員になる日がくる。退しょくしたり、主婦になることだって、あるかもしれない。
だけどその時は「家族のため。家族の笑顔のためだ」と胸をはって言えるようになりたい。
大好きな父をみてそう思う。
講 評
お父さんが大好きなことが、家族を守って笑顔にしてくれるお父さんが大好きなことが、全体の構成や表現に工夫し、また一方では率直にストレートに吐露しながら、実によく書けていましたし、その結果、とても感動的に伝わってもきました。そして、社会に出てはたらくことと、家族を思いやることとの関係性に思い至っている点が、大変優れていると思いました。