CATEGORY

通常国会で成立した雇用労働関係法制のポイント

第213回通常国会は、150日間の会期を終えて閉会しました。政府・与党は重要広範議案に指定された「育成就労創設・永住許可適正化」「子ども・子育て支援金」「セキュリティー・クリアランス創設」「食料安全保障強化」の4法案を含む61法案を成立させました。このうち、企業対応が必要な雇用労働関係のポイントを整理します。

【改正雇用保険法】
企業と働く人の双方に影響があるのは改正雇用保険法です。パート社員らの雇用保険への加入を進めるもので、現行対象の「週20時間以上」から「同10時間以上」に拡大します。新たに500万人程度の加入が見込まれ、2028年10月にスタートさせる方針です。4年半ほど先の運用開始となりますが、会社と働く人の双方が社会保険として負担する制度であるため、パート社員を多く雇用している企業は相応の準備と計画が必要となります。

また、自己都合退職者は従来2カ月間失業手当を受け取れませんでしたが、リスキリング(学び直し)をしていれば、これを1カ月に短縮。そのための給付金の給付率を受講費の最大70%から80%に引き上げます。

一方、育児休業給付の財源確保のため、暫定的に80分の1に縮小してきた国の負担割合を8分の1に戻し、労使折半の保険料率を0.4%から原則として0.5%に引き上げることも決まりました。具体的な手順などを決める政省令については、厚労相の諮問機関である労働政策審議会で議論します。

【改正育児・介護休業法】
仕事と育児を両立しやすくするため、子供の対象年齢を拡大し、企業に支援措置を義務付けるなどの大幅改正となった育児・介護休業法が成立しました。来年4月から順次施行します。

主な改正内容は、子供が3歳から小学校就学まで、企業はテレワーク、時短勤務、時差出勤などの制度を二つ以上用意して、従業員が選べるようにします。子供が3歳未満の場合はテレワークの導入を企業の努力義務としました。また、子供が3歳になるまで申請できる現行の「残業免除」を小学校就学前までに延長。看病のための「看護休暇」も小学校就学前から小学3年生まで延長します。

また、企業に対しては、従業員1000人超に義務付けている男性の育児休業取得率の公表を300人超に拡大し、100人超には取得率の数値目標の設定を義務付けます。家族の介護については、社員が介護保険料の支払いが始まる40歳になる際、介護休業などの制度について情報を提供することを義務付け、テレワーク導入も努力義務化しました。

【改正子ども・子育て支援法】
児童手当の拡充をはじめとする少子化対策の強化や、その財源確保に向けた「支援金制度」の創設を盛り込んだ改正子ども・子育て支援法が成立しました。審議の過程では財源論の是非などをめぐって議論が白熱し、「支援金の効果を検証して適切に見直しを実施する」と記した付帯決議を衆参両院で可決しました。

ポイントの多い改正法で、まず、児童手当の所得制限を今年12月の支給分から撤廃し、対象を18歳まで広げるほか、働いていない場合でも子どもを保育園などに預けられる「こども誰でも通園制度」の導入、育児休業給付の拡充などが盛り込まれました。また、財源を確保するため、公的医療保険に上乗せして国民や企業から集める「支援金制度」を創設、2026年度から段階的に運用を開始します。

このほか、家族の介護や世話などをしている子どもたち、いわゆる「ヤングケアラー」についても、国や自治体による支援の対象とすることを明記し、対応を強化します。

改正法には、政府が去年12月に策定した「こども未来戦略」に基づく新たな少子化対策が組み込まれています。具体的な中身としては、上記のほかに(1)ひとり親世帯を対象にした児童扶養手当について、子どもが3人以上いる世帯で加算部分の支給額を引き上げ(2)妊娠・出産した際に10万円相当を給付(3)子どもが1歳になるまでの親の国民年金保険料を免除(4)両親がともに14日以上育児休業を取得すれば、最長28日間は、育児休業給付を拡充し、実質的な手取り収入が減らないようにする(5)2歳未満の子どもの親が時短勤務をする場合、賃金の10%にあたる額を支給――などがあります。

政府は、少子化に歯止めをかけるには「若年人口が急激に減少する2030年までがラストチャンス」と強調し、一連の施策を進めていきたい考えです。

【改正出入国管理・難民認定法、改正技能実習適正化法】
「技能実習」に代わる「育成就労」創設や永住許可の適正化を柱とする出入国管理・難民認定法と技能実習適正化法の改正法が成立しました。実態として労働力確保に利用され、国際社会から人道的な批判もあった技能実習制度を廃止し、外国人材の「確保と育成」を目的とする実態に即した制度への転換を目指します。公布後3年以内の施行となり、新制度は2027年の運用開始が見込まれます。

制度の見直しによって、「育成就労」の原則3年間で「特定技能」の水準にまで育て、スムーズな移行につなげたい考えです。受け入れる分野は「特定技能」にそろえ、現在は原則として認めていない別の企業などに移る転籍(転職)を一定の要件のもとに認めます。また、永住者が故意に納税や社会保険料の納付を怠った場合に永住許可を取り消すことができるようにしましたが、衆参の付則で「取り消す際には生活状況などに十分配慮する」ことが盛り込まれました。

このほか、技能実習制度で外国人の受け入れと企業の仲介を担ってきた監理団体は、「監理支援機関」に名称変更して外部監査を強化。違法に雇う雇用主の「不法就労助長罪」を厳罰化しました。小泉龍司法相は、「あらゆる分野に影響が大きい重要な改正であり、施行まで3年あるものの、できるだけ早くガイドラインを作成するなど具体化を進め、多くの人たちの疑問や不安にこたえていく」と強調し、「衆参の国会審議で指摘された点を十分に踏まえながら、一層の取り組みを進めていく」と述べました。

【改正法の概要】:https://www.advance-news.co.jp/news/n240517.pdf

企業と働く人に影響がある雇用労働関係の改正法はすべて成立し、施行に向けた準備が加速します。これから、運用面のルールを決める政省令策定が本格化するため、議論の舞台となる労働政策審議会の動きが注目されます。

提供:アドバンスニュース

この記事は役に立ちましたか?

もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。